2021年04月19日

TNR手術

 本格的にTNR手術を受け入れ、約50日経過しました。

 お陰様でというか、やはり手術のニーズが潜在的に、そして地域的に多かったのか、50日で43頭、つまり1日に1件のペースで手術をしている状況です。

 内訳は、以下のとおりです。

 紹介ルート
  ・どうぶつ基金より 25頭(58%)
  ・それ以外     18頭(42%)

 性別
  ・♂ 20頭(47%)
  ・♀ 23頭(53%)

 その他
  ・手術済み 3頭(7%)

 最後の手術済みというのは、麻酔をかけて手術できる体制にし、きっちり体をチェックしたらすでに手術済みだった、という事です。これ、野良猫では珍しいことではありません。

 こういったことが無いよう、野良猫や地域猫の避妊・去勢手術をした際は片方の耳に切込みを入れ、ひと目で分かるようにしておく必要があるんですよね。

こんな感じで。
 
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 皆様がもし街でこんな耳の子を見かけたら、発情期に大声で鳴いたり縄張りのためにいろいろな場所でおしっこしたりする可能性は低いので、暖かく見守ってあげてください。
posted by hiro at 20:12| Comment(0) | 健康

2021年02月03日

動物病院とインターネット、最終話

さて、ここまで読んでいただいて皆様の頭の中には「?(クエスチョンマーク)」が浮かんでいることでしょう。

え、それだけインターネットを否定しておいて、自分でネットでサプリショップを開くってどゆこと?

 そうなんです。そのお気持ち、よくわかります。お前も結局儲け主義かと。


 そういう気持ち(ちょっと副業的な?)が全く無いと書けば嘘になります。でも、今後ある程度「獣医さんのサプリ屋さん」が軌道に乗ったとしても、本業はあくまで動物の診療であり、病院で日々皆様と向かい合いながら働くことを疎かにすることはありません。

 それに、恐らく、何十万円も何百万円も売上が上がるとは思えません。価格では大手に叶いませんし、検索ではamazonに叶いませんし、先発組からはすでに何周も周回遅れです。

 私がサプリのネットショップを開いたのは、あくまで「当院に来てくださっている患者さんたちへのサービスの一貫」というのがメインです。サプリだけ取りに行きたいけど、病院まで行けない。面倒だ。じゃあ、通販で買おう。でも、ここ、ホントに安心なのかな?そういう声に応えたかった、というのが動機の一番大きな部分です。


 ネット通販の大きな波は、もう止められません。逆に、「通販すらできない」と確実に時代に取り残され、どんどん遺物化、化石化していくでしょう。

 じゃあ、それに真っ向反対するのではなく、その波にちょっとだけ乗ってみようかな、それぐらいの気持ちで始めたと思ってください。
posted by hiro at 19:08| Comment(0) | 日記

2021年02月02日

動物病院とインターネット、続きの続き

続きです。

サプリやフード、薬までもがネットで買えてしまう。便利だけど、落とし穴があります。それを認識してくださいね、というお話です。前回は「間違える可能性」と「偽物の可能性」についてお話しました。

 今日は残り2つです。

3,質が悪い可能性

 これはフード(処方食)で一番問題になることなのですが、例えば当院の場合、病院で取り扱っている処方食は注文を受けてから業者に発注し、製品を持ってきてもらいます。そして皆様に持って帰っていただくので、倉庫や病院内で長期保存しているフードはほとんどありません。もちろん正規ルートなので海外から輸入される時点でもきちんと温度管理されて最短時間で届いているフードです。

 しかし、ネットやホームセンターで売られているフードはどうでしょう。どんなルートで、どんな輸送手段で仕入れてきたか、どんな倉庫でどんな管理をして保存されているのかを「正しく」調べる術はほぼありません。店頭に並んでいる商品も、よく売れている商品を除き、何ヶ月も陳列棚に置かれている・・・という可能性もあります。

 最悪のパターンは、太平洋やインド洋を船便でコンテナ輸送された場合です。赤道付近をコンテナで輸送された場合、コンテナ内の温度は70度まで上昇すると言われています。そんな環境に何週間もさらされた(可能性のある)フード、ちょっと安いから、便利だからといって使う気になれますか?

 実際に、ネットなどで買ったフードを開けたら油の酸化したような変な匂いがした、という話はよく聞きます。そういうフードを与えて体調を崩した動物を診察したことがある、という獣医さんも知っています。


 もちろんすべてのネットショップ、すべての店舗販売がそうだとはいいませんが、それを調べるすべがない、そういう可能性があるというだけでも二の足を踏んでしまいませんか?

 どうしてもネットで買いたいという場合、まず最小単位の袋を病院とネットで同時期に注文し、そのパッケージや質を比較してみてください。賞味期限や匂い、食いつきにほとんど差がないならそのネットショップは良いショップだと思います。しかしそれでも、ずっとそういういい商品が送られてくるという保証はありません。

 動物病院で(定価で)買うということは、そういう安心や保証も同時に買っているということなのです。

4,意思疎通・信頼関係が疎かになる

 病院で処方された薬やフードやサプリをネットで購入した人の中には、ちょっと後ろめたい気持ちになる方もいらっしゃいます(最近はネットで買うのが当たり前になり、そうでもなくなりましたが・・・)。

 後ろめたい気持ちになるとどうするか。ネットで買っていることを隠したくなるんですね。あるいは嘘をついてしまう。薬を飲んでいるのに飲んでいないと言ったり、「知り合いからもらった」と言ったり・・・

 余談ですが、「知り合いから薬をもらった」とかかりつけの獣医さんに言ったとたん、その獣医さんは心のなかで「ああ、そういうタイプの人ね」と思い、あなたのカルテを「一般フォルダ」から「そういう人フォルダ」に移し替えます(注:比喩表現です)。

 「そういう人」がどういう人を意味してるのかは・・・はい、ここには書けません。

 閑話休題。

 つまり、正しい薬を飲んでいるのかいないのか、きちんとフードを与えているのかいないのか、獣医師の認識と実際に飼い主さんがしていることとの乖離が起こり、非常にややこしく厄介な状態になってしまうのです。

 そういう状態ではお互いの信頼関係は生まれません。すると、最良の治療ができなくなってしまうかもしれず、結果的にしわ寄せは動物に・・・

 「どうしてもネットで買いたい」とおっしゃるのなら、どうか正直に仰ってください。その理由が値段の問題なら安くする工夫をしますし、手間の問題なら来院頻度を減らす工夫をしたりします。

 でも、どうしても出来ないこともあります。その点はご理解いただきたいです。ネットは万能ではないですから。
posted by hiro at 00:00| Comment(0) | 健康

2021年02月01日

動物病院とインターネット、続き

前回の日記では、こういうな話を書きました。

元々、動物病院とインターネットとは相容れないもの、いやむしろ敵のような関係でした

過去形になっていることには意味があります(後で説明します)。で、その理由として、

・飼い主さんが、ネットのいい加減な情報に惑わされる
・その情報を鵜呑みに、間違った知識で間違った治療を望む


という2点をあげたのですが、今日はその続きを書きます。

・情報だけでなく、サプリやフード(処方食)、さらには薬まで手に入ってしまう

 いい加減で間違った情報、あるいは正しい情報であっても自分い都合のいいところだけを読んで曲解してしまうという点については、まだ病院へ来ていただいた時にしっかりお話をして誤解を解くことが可能ですが、ネットでサプリやフード、薬を購入されて使われると我々は困ってしまいます。

 儲からないから?いいえ、違います。安全性を担保できないからです。

 サプリやフード、そして薬を一般の方がネットで買うときの危険性は4つあります。

1,間違える可能性

 フードや薬の名前はよく似ているものがたくさんあります。パッケージもフードなどによってはよく似ていて、名前だけ違うというものも数多くあります。肝臓用と腎臓用、腎臓用と心臓用など、フードの場合は間違ってもすぐに悪影響が出ない場合もありますが、薬の場合は直接命に関わります。

 同じ薬でも、1錠あたりの内容量が違うものがたくさんあります。病院で1錠(10mg)飲ませてたから、ネットで買ったのも1錠(20mg)飲ませてたら薬の用量が2倍で深刻な結果に、なんて事も起こりえます。

 いや、薬用量(体重1kg当たり薬を何mg与えるか)もネットで調べるから大丈夫?その情報、本当に正しいと判断できますか?それに、その子の状態・年齢・体調・病態によって1日に飲ます量や回数をきちんと調整できますか?

 あえて上から目線で書かせてもらいますが、シロウトさんが薬を自己判断で処方するのは無理です。「薬剤師」という国家資格がなぜあるかを考えればその難しさをご理解いただけると思います。(薬を扱えるのは医師、薬剤師、歯科医師、そして獣医師のみです)。

2,偽物の可能性

 フードやサプリでは少ないでしょうけど、薬の偽物はたくさん出回っています。特に高い薬でその傾向は顕著です。いちばん有名なのは、男性のEDの治療に使われるシルデナフィル(バイアグラ)、タダリス(シアリス)ですね。病院で処方してもらうと1錠1000円以上しますが、ネットでは数百円で買えます。しかしその多くは偽物だと言われています。

 ED治療薬なら効果がなくても命に別状はありませんし、プラシーボ効果で効くかもしれませんが、動物の薬の場合、プラシーボ効果は期待できませんし、何より命に関わります。高い薬を使わざるを得ない時というのは、えてして重篤で深刻な病態のときだからなおさらです。

 あなたかあなたの家族が難病にかかったとします。お医者さんで、この飲み薬を使うと治りますが1ヶ月で50万円掛かりますと言われました。その時、ネットで同じ薬を調べたら国産ではない聞いたことのないメーカーが同じ成分の薬を5万円で売っているのを発見しました。

 その薬、ネットで取り寄せて使いますか?・・・・私なら使いません。

長くなったので、続きます。
posted by hiro at 18:05| Comment(0) | 診療

2021年01月26日

動物病院とインターネット、あるいは診療費の話(1)の続き

さて、前々回の続きです。
TNR手術と同時期に始めた新しいこと、それは、サプリショップ開設です。
(ホームページやフェイスブックでアナウンスしているのですでにご存じの方も多いと思いますが)

元々、動物病院とインターネットとは相容れないもの、いやむしろ敵のような関係でした。

この件についてちょっと脱線します。そう、ここから、5年前の「診療費の話1」の続きになります。やっと続きが書ける。

 我々がインターネットを敵視(とまでは行かなくても、厄介だなと思っている)理由を書いていきます。

・飼い主さんが、ネットのいい加減な情報に惑わされる

 いやもういっぱいいらっしゃるんですよ。「この薬は体に悪いとあるブログに書いてました」「ステロイドは副作用が酷いので使っちゃダメとある先生が言ってました」「ネットで調べたら◯◯という病気だと思うのですが」っていう人。

 いや、心配で色々調べたくなる気持ちはわかるんですけど、鵜呑みにしないでほしいです。それ、「単なる個人の感想」か「頭のおかしい人」かコマーシャル(商売)ですから。

・その情報を鵜呑みに、間違った知識で間違った治療を望む

 実際に開業して何十年もやってる獣医師ではなく、ネットの、どこの誰が書いたかわからない事、素人が書いてるブログを信じる心理はわからなくもないです。飼い主さんの「こうあってほしい」という心理につけ込むため(今流行の「正常性バイアス」ってやつですね)、良いことや極端なことを書いてるからです。しかも断定的で説得力がある。

 なぜ断定的で説得力がある言い方ができるかというと、責任を取らなくていいからです。そう、これ、詐欺師の常套手段なんですよねー。アトピーやガンの代替医療なんか典型ですね。

 「波動」とか「宇宙」とか「漢方」とか(漢方が全部胡散臭いわけではありません、念のため)「独自の」とか「なんとか水」とか書いてたら、ちょっと慎重になってください。そんなモノありませんから。ホントに良いものなら大手が商売にしてますって!!私も使いますって!!

 昔から言うでしょ?楽して儲かる話なんて無いんです。安く簡単に病気が治ることもないんです。詐欺なんです!

 こういうサイトは自分のところの商品を売りたいので、既存の薬や西洋医学をけなすところから始めます。そのパターンはすべて同じ。既存の獣医師は金儲け主義!西洋医学の薬は副作用が怖い!本当は薬は毒だから飲まさないほうが良い!

 タチが悪い所は、証拠として論文を紹介します。だってほら、論文に書いてあるでしょ。だから私は正しいんですよと。

 そりゃあ一般の人は騙されますよね。「へー、論文になってるのかそりゃあ間違いないだろうなあ。この先生、論文まで見つけてきてしかも教えてくれて親切だなあ。ちゃんと勉強してるんだなあ。よし、信じよう」

 それこそ詐欺師の思うつぼですからー!!

 理由そのいち。

 一口に論文と言っても、例えば科学雑誌の最高峰、世界中で読まれている「ネイチャー」や「サイエンス」に載った論文と、日本の小さな分野の、これまた小さな学会の、発行部数数千部しかない雑誌に乗った論文とを同列に語れないことはわかりますよね。

 権威という言葉はあまり使いたくないけれど、その説得力と内容の信憑性は別物です。つまり、論文にもピンからキリまであるということです。でも詐欺師はその「キリ」の論文をさも「ピン」のように紹介しているんです。

 理由そのに。

 論文には消費期限があります。科学の世界では「昨日の常識が今日の非常識」みたいなことが頻繁に起こります。はるか昔なんて放射性物質は病気を治す万能薬って思われてラジウムを飲んでたりしたんですよ。ガンで死ぬ人が多数出て、やっと危険性が認知されたとか。

 まあこれは極端な例としても、ダイオキシンの危険性、マイナスイオンの有効性、真夏の運動時に水分塩分補給するかしないか、コーヒーやアルコールが体へ及ぼす影響(適量なら良いのか、それとも少しでもダメなのか)なんて、昔から大幅に変わってきていることはたくさんあります。

 つまり何がいいたいかというと、論文を読む時は「いつ発表されたものか」ということがけっこう大事で、何十年も前に発表された論文を根拠として出してるっていう時点で疑わないといけないということです。

 ちなみに論文の発表された年は著者の後、一番最後に書かれているはずです(論文引用のルール)。


 理由そのさん。

 科学論文は「一科学者(あるいは一研究所、一大学)の意見」であって、絶対に正しいとは限らない。だって科学者によって意見が分かれることなんて山ほどあるわけですから。科学なんてまだまだわからないことのほうが多いんですよ。だから極端に言えば論文は「署名のあるブログ」っていうだけのものなんです。

 理由そのよん。

 都合のいいことだけ抜き出してないか。これ、たいへん多いです。論文紹介してても、それを隅から隅まで読む読者の人ってまあいないですよね。英語ならなおさら(科学論文は基本英語です)。だから、詐欺師は「その論文の、自分の都合のいいごく一部」だけ抜き出して、「ほら論文に書いてるでしょ!」って言うんです。
 でも、きちんと読んでみるとその「都合のいいごく一部」は全く本筋とは関係なかったりするんですよね。酷いものなんかでは「試しにこういう特殊な条件でやってみたら、悪い結果がでました。でも一般的にはすごくいい結果が出ましたよ」という実験結果の前半だけを取り出して「ほら悪い薬ですよ!論文に悪いって書いてますよ!」って言ったりしてます。
 これ、実際に、ある薬を否定してる獣医さんのウェブでやってることなんですよね。酷い話しです。


 というわけで、「インターネットを鵜呑みにしてはいけない理由」の途中ですが、ちょっと長くなってしまったので今日はここまでにしときます。

posted by hiro at 11:40| Comment(0) | 日記