さて、前々回の続きです。
TNR手術と同時期に始めた新しいこと、それは、サプリショップ開設です。
(ホームページやフェイスブックでアナウンスしているのですでにご存じの方も多いと思いますが)
元々、動物病院とインターネットとは相容れないもの、いやむしろ敵のような関係でした。
この件についてちょっと脱線します。そう、ここから、5年前の「
診療費の話1」の続きになります。やっと続きが書ける。
我々がインターネットを敵視(とまでは行かなくても、厄介だなと思っている)理由を書いていきます。
・飼い主さんが、ネットのいい加減な情報に惑わされる いやもういっぱいいらっしゃるんですよ。「この薬は体に悪いとあるブログに書いてました」「ステロイドは副作用が酷いので使っちゃダメとある先生が言ってました」「ネットで調べたら◯◯という病気だと思うのですが」っていう人。
いや、心配で色々調べたくなる気持ちはわかるんですけど、鵜呑みにしないでほしいです。それ、「単なる個人の感想」か「頭のおかしい人」かコマーシャル(商売)ですから。
・その情報を鵜呑みに、間違った知識で間違った治療を望む
実際に開業して何十年もやってる獣医師ではなく、ネットの、どこの誰が書いたかわからない事、素人が書いてるブログを信じる心理はわからなくもないです。飼い主さんの「こうあってほしい」という心理につけ込むため(今流行の「正常性バイアス」ってやつですね)、良いことや極端なことを書いてるからです。しかも断定的で説得力がある。
なぜ断定的で説得力がある言い方ができるかというと、責任を取らなくていいからです。そう、これ、詐欺師の常套手段なんですよねー。アトピーやガンの代替医療なんか典型ですね。
「波動」とか「宇宙」とか「漢方」とか(漢方が全部胡散臭いわけではありません、念のため)「独自の」とか「なんとか水」とか書いてたら、ちょっと慎重になってください。そんなモノありませんから。ホントに良いものなら大手が商売にしてますって!!私も使いますって!!
昔から言うでしょ?楽して儲かる話なんて無いんです。安く簡単に病気が治ることもないんです。詐欺なんです!
こういうサイトは自分のところの商品を売りたいので、既存の薬や西洋医学をけなすところから始めます。そのパターンはすべて同じ。既存の獣医師は金儲け主義!西洋医学の薬は副作用が怖い!本当は薬は毒だから飲まさないほうが良い!
タチが悪い所は、証拠として論文を紹介します。だってほら、論文に書いてあるでしょ。だから私は正しいんですよと。
そりゃあ一般の人は騙されますよね。
「へー、論文になってるのかそりゃあ間違いないだろうなあ。この先生、論文まで見つけてきてしかも教えてくれて親切だなあ。ちゃんと勉強してるんだなあ。よし、信じよう」 それこそ詐欺師の思うつぼですからー!! 理由そのいち。
一口に論文と言っても、例えば科学雑誌の最高峰、世界中で読まれている「ネイチャー」や「サイエンス」に載った論文と、日本の小さな分野の、これまた小さな学会の、発行部数数千部しかない雑誌に乗った論文とを同列に語れないことはわかりますよね。
権威という言葉はあまり使いたくないけれど、その説得力と内容の信憑性は別物です。つまり、論文にもピンからキリまであるということです。でも詐欺師はその「キリ」の論文をさも「ピン」のように紹介しているんです。
理由そのに。
論文には消費期限があります。科学の世界では「昨日の常識が今日の非常識」みたいなことが頻繁に起こります。はるか昔なんて放射性物質は病気を治す万能薬って思われてラジウムを飲んでたりしたんですよ。ガンで死ぬ人が多数出て、やっと危険性が認知されたとか。
まあこれは極端な例としても、ダイオキシンの危険性、マイナスイオンの有効性、真夏の運動時に水分塩分補給するかしないか、コーヒーやアルコールが体へ及ぼす影響(適量なら良いのか、それとも少しでもダメなのか)なんて、昔から大幅に変わってきていることはたくさんあります。
つまり何がいいたいかというと、論文を読む時は「いつ発表されたものか」ということがけっこう大事で、何十年も前に発表された論文を根拠として出してるっていう時点で疑わないといけないということです。
ちなみに論文の発表された年は著者の後、一番最後に書かれているはずです(論文引用のルール)。
理由そのさん。
科学論文は「一科学者(あるいは一研究所、一大学)の意見」であって、絶対に正しいとは限らない。だって科学者によって意見が分かれることなんて山ほどあるわけですから。科学なんてまだまだわからないことのほうが多いんですよ。だから極端に言えば論文は「署名のあるブログ」っていうだけのものなんです。
理由そのよん。
都合のいいことだけ抜き出してないか。これ、たいへん多いです。論文紹介してても、それを隅から隅まで読む読者の人ってまあいないですよね。英語ならなおさら(科学論文は基本英語です)。だから、詐欺師は「その論文の、自分の都合のいいごく一部」だけ抜き出して、「ほら論文に書いてるでしょ!」って言うんです。
でも、きちんと読んでみるとその「都合のいいごく一部」は全く本筋とは関係なかったりするんですよね。酷いものなんかでは
「試しにこういう特殊な条件でやってみたら、悪い結果がでました。でも一般的にはすごくいい結果が出ましたよ」という実験結果の前半だけを取り出して「ほら悪い薬ですよ!論文に悪いって書いてますよ!」って言ったりしてます。
これ、実際に、ある薬を否定してる獣医さんのウェブでやってることなんですよね。酷い話しです。
というわけで、「インターネットを鵜呑みにしてはいけない理由」の途中ですが、ちょっと長くなってしまったので今日はここまでにしときます。