2013年12月24日

動物をめぐる似非科学(最終回)

お待たせしました。動物をめぐる似非科学、今回はズバリ核心に切り込みます。


エピソードその1:万能シール

 昔、まだ勤務医をしていた頃、腎臓が悪いシェルティを診察しました。その子は、残念ながら病気が見つかった時にはすでに末期的な段階で、高齢ということもあり治療をしても数ヶ月持つかどうか・・・という状況でした。

 しかし、適切な治療をすれば尿毒症からくる吐き気や食欲不振、そしてだるさなどの症状は一時的にでもやわらげることができます。

 血液検査の結果と病名をお伝えし、治療方針について話をしようとしたところ、飼い主さんが

「先生大丈夫。この子にはこれを使いますから(治療は)いりまへん」

と言って、かばんの中から丸いシールを取り出しました。その、ロゴの入った肌色の小さなシールは何でもチタンが練り込んであるらしく「生体電気」を整えて病気を直してくれるとのこと。

 若かった私は、そんなものが世の中に存在することも知らず、そしてそのあまりに堂々とした物言いに圧倒され、結果的に飼い主さんの言い分を飲むことになりました。後で院長に相談すると「ああ、そういう人はしたいようにさせてあげたほうがいいよ」とのこと。

 なぜならそういうものを信じる人は「医学的常識」など聞く耳持たず、強引に治療をしてもトラブルになるだけだからだそうです。

 結局その子は最初の見立てよりも早く(しかも苦しみながら・・・)亡くなりましたが、飼い主さんは満足げでした。



エピソードその2:ステロイド嫌悪症

 開業当初のことです。ただし、このエピソードは私の治療方法や説明も悪かったかもしれませんので、一緒に反省します。

 その犬はその当時増えつつあった「アトピー性皮膚炎」だったのですが、治療の三大柱、スキンケア(その子にあったシャンプー、サプリメント)と環境整備(まめな掃除)はご理解いただいたのですが、かゆみを抑えるステロイドだけは頑として受け付けてくれません。

 その飼い主さんは「ステロイドは悪魔の薬で、一度使ったら最後、一生飲ませ続けないといけなくなり、少しでも止めたり量を減らしたりするとたちまちそれまでの何倍もの痒みが襲ってきて病気が悪化し、最後には全身がボロボロになって死ぬ」と信じて疑わなかったのです。

 もちろんステロイドにはそういう側面がありますが(そして確かに最近ではできるだけステロイドを使わないような治療へシフトしてきつつありますが)、とにかく今出ている酷い痒みを止めるにはステロイドを使うしかない、という私の説得も馬耳東風、ケース1の方と同様、病院での治療を拒否しご自分で治療する方法を模索するようになりました。

 西にステロイドを使わない獣医さんがいると聞けば出かけ、東に漢方で直してくれる先生がいれば車を走らせ、やれソリッド・ゴールドだ高価なサプリメントだ牛乳石鹸だ木酢液だ竹酢液だムトウハップだと色々なものを使っているうちにその子の皮膚はどんどん悪化し、ついには真っ黒のボロボロのガサガサのベトベトに。

え、どうして治療を受けていないはずなのにそれだけ詳しく知ってるんだ?それは、治療は受けないけれど電話で「これはどうだ」「あれは効くか」「こんなのを見つけたんだけど」と聞いてこられるからです。その都度「よくわかりませんし、そもそも診療もしないでこのサプリがいいとかあのフードがいいなどという無責任なことは言えない」と言うと数ヶ月に1度連れてこられる。そして最初に戻る、の繰り返し。

(ソリッド・ゴールドと実名を上げましたが、今はどうか知りませんがその当時のソリッドゴールドは食べさせるだけで「フィラリアにならない」「アトピー性皮膚炎が直る」「ジステンパーにも掛からなくなる」などと謳っていたのであえて実名を挙げました。このように「何にでも効く」と謳うのは似非科学の特徴の1つです)

結局その子も、何年も酷い痒みに夜も寝られない状態のまま亡くなっていきました。最後までステロイドは使わなかったと思います(他で処方してもらっていたかもしれませんが)。

そう、結局、エセ科学に騙されてつらい目に合うのは他のだれでもない、動物たちなんですよね。


ご自分で信じていろいろな健康法を試されるのは構いません。でも、それを動物に押し付けないでください。あなたには効いているかもしれませんが、それがその子に効くとはかぎりません。それどころか、人間は大丈夫でも犬や猫には毒になるモノや食べ物もたくさんあるのです。



 あなたが信じているその◯◯、ひょっとしたら「iPhoneは電子レンジで充電できる」ぐらいの与太話かもしれません。iPhoneは壊れても買い換えれば済みますが、一度損なった健康はお金では買い戻せないかもしれません。


posted by hiro at 20:33| Comment(0) | 日記

2013年12月15日

動物をめぐる似非科学

前回、似非科学について私の考えを書かせていただきました。今回はその続きです。

しつこいようですが、ホメオパシーやある種の健康食品をすべて「悪いものだ」と言うつもりはありません。それらが生活の中でかけがえのないものになっていたり、それで人生が明るくなったという人も中にはいらっしゃると思いますので、そこを否定するつもりはありません。

ただ、売る側があたかも「コレは正しいですよ」「これはサイエンスですよ」という顔をして、科学的知識に乏しい人たちを平気で騙しているのが許せないだけです。

もう2つだけ例をあげます。

「99.9%除菌」という謳い文句は細菌学的には「3時間経てば元に戻る」というのとほぼ同じ意味です。また「耐性菌(より強い菌)をどんどん増やす」という意味でもあります。つまりほとんど意味がないだけでなく、かえって事態を悪化させているのです。お金をかけて一生懸命「除菌」(除菌という言葉自体がエセ科学です)をして喜ぶのはメーカーとバイキンだけです。

 っていうか、消毒したければ熱湯を使う(キッチン回りなど)。使えない所やモノは流水でよく洗う(入れ歯など)。石鹸で洗う(手など)それで十分。


「◯◯黒酢にはアミノ酸がたっぷり!!」・・・??まったく意味不明です。「アミノ酸」といえば何か特別な栄養素のようですが、「タンパク質の構成成分」のことです。つまり牛鶏豚、卵、魚、大豆といったどこにでもある「肉類」に呆れるほどたくさん入っています。

もちろんアミノ酸には何十種類もあり、人間が必要なアミノ酸は20種類、その中で体内で合成できない(つまり外から摂るしかない)必須アミノ酸と呼ばれるものは9種類あります。

よって、◯◯黒酢に入っていて他の獣肉に入っていない必須アミノ酸もあるにはあります。でもそれでさえ、色々なたんぱく質(肉類)をまんべんなく摂取るすることで必要十分な量は採れるのです。普通の食事をとっている人にとって、わざわざ高いお金を払ってサプリメントとして摂取する必要はまったくありません。

「アミノ酸をサプリメントで摂取する」というのは、「(普通に呼吸をすれば十分な)酸素をわざわざボンベからマスクを通して吸入して生活する」という愚と同じなのです。


またまたアツくなって前置きだけになってしまいました。次回は必ず「動物をめぐるエセ科学の正体」について書きます。ごめんなさい。
posted by hiro at 10:32| Comment(0) | 日記

2013年12月10日

似非(エセ)科学

寒くなってきました。今年は秋がほんの少ししかなく、すぐ冬が来てしまった感じですね。晩秋から初冬は自律神経に負担がかかり、お腹を壊したり食欲がなくなったりすることも多いのでお気をつけ下さい。特に小型犬は体が冷えやすいですし、さらに高齢の犬、猫は要注意です。不調が2日以上続けば来院していただいた方が良いと思います。

さて、今日の話題は「似非(エセ)科学」です。聞いたことがありますか?「疑似科学」などと呼ばれることもあります。

言葉である程度予想がつくと思いますが、このエセ科学とは、

「いっけん科学的で信ぴょう性があるように聞こえるが、実はぜんぜん(あるいはほとんど)実証されていなくて、逆にとんでもないウソや詐欺に近い内容もある方法論や研究のこと」

を指します。有名なところで言うと、

血液型別性格判断

手相・占星術・などの占い一般

超能力


などが代表です。まあこの辺りは「当たるも八卦、当たらぬも八卦」という言葉もある通りですから、実害は少ないですし、ニセモノだと理解しつつ楽しむこともできます。しかし、

ホメオパシー

ゲルマニウム・トルマリンの効用

マイナスイオン

活性水素水

(食べる)酵素


などになってくると、少し悪質度が増してきます。本人が心の底からが信じ、誰にも迷惑をかけないで実践されている分には文句を言ったり否定したりする私のほうが「大きなお世話」なのですが、これらを使って人を騙し、金儲けをし、あるいは善意からでも人に勧めるようになってしまうとそれは大きな問題です。

なぜなら上にも書きましたがそれらはすべて「ウソ」だからです。


ちなみにここでいう「ウソ」とは、現代の科学で証明、解明できないということです。でもこう書くと「科学で解明できないこともあるだろうし、今は無理でも10年後に証明されるかもしれないじゃないか」という人が必ず出てきます。でもそれは詭弁なのです。

 なぜ詭弁なのか。いくらでも反証を挙げることができますが、ここでは1つだけに絞って書きます。「科学」とは、ごく簡単に書けば「再現性がある」という言葉に置き換えることができます。「再現性」とは科学用語ですが、一般の用語で説明すると「同じ条件なら、いつ、どこで、誰がやっても同じ結果になる」ということになります。

 地球上でりんごを手から離せば、誰がどこで離してもそのリンゴは地上に落ちます。それが「万有引力の法則」なのです。だから「ゲルマニウムブレスレット」が10人中3人の「肩こりが劇的に改善した!」というだけでは、「科学的に効果がある」とは認められないのです。なぜか。

10人中3人ぐらいは「こんなに高いブレスレットしかもゲルマニウムという何となく放射能や磁力みたいなものが出てるありがたい金属が付いてるんだからきっと肩こりにいいに違いない。そもそも効果のないものを売るはずがないだろうし効果がなかったらこんなに売れ続けているわけがない。TVであの人もいいと言ってた。近所のおばちゃんもいいと言ってた。だから効くんだ」と思うので、そういう人にはプラシーボ効果で効いてしまうのです。

もちろん、ニセモノでも肩こりが治ればその人は幸せになれるわけで、その幸せな人を捕まえて「外せ」なんて口が裂けても言いません。でも「絶対効くよ!だって私も効いたから!」と言って人に勧めるのはできればやめてください。なぜか。残りの7人にあたる人が騙されるからです。



さて、実はこの似非(エセ)科学、ペットに関係する物事にもたくさん存在します。そのことを書こうと思っていたのですが前置きだけでこんなに長くなってしまいました。獣医師やペットを狙う悪質な似非(エセ)科学については、また日を改めて。
posted by hiro at 19:07| Comment(0) | 日記