2021年01月26日

動物病院とインターネット、あるいは診療費の話(1)の続き

さて、前々回の続きです。
TNR手術と同時期に始めた新しいこと、それは、サプリショップ開設です。
(ホームページやフェイスブックでアナウンスしているのですでにご存じの方も多いと思いますが)

元々、動物病院とインターネットとは相容れないもの、いやむしろ敵のような関係でした。

この件についてちょっと脱線します。そう、ここから、5年前の「診療費の話1」の続きになります。やっと続きが書ける。

 我々がインターネットを敵視(とまでは行かなくても、厄介だなと思っている)理由を書いていきます。

・飼い主さんが、ネットのいい加減な情報に惑わされる

 いやもういっぱいいらっしゃるんですよ。「この薬は体に悪いとあるブログに書いてました」「ステロイドは副作用が酷いので使っちゃダメとある先生が言ってました」「ネットで調べたら◯◯という病気だと思うのですが」っていう人。

 いや、心配で色々調べたくなる気持ちはわかるんですけど、鵜呑みにしないでほしいです。それ、「単なる個人の感想」か「頭のおかしい人」かコマーシャル(商売)ですから。

・その情報を鵜呑みに、間違った知識で間違った治療を望む

 実際に開業して何十年もやってる獣医師ではなく、ネットの、どこの誰が書いたかわからない事、素人が書いてるブログを信じる心理はわからなくもないです。飼い主さんの「こうあってほしい」という心理につけ込むため(今流行の「正常性バイアス」ってやつですね)、良いことや極端なことを書いてるからです。しかも断定的で説得力がある。

 なぜ断定的で説得力がある言い方ができるかというと、責任を取らなくていいからです。そう、これ、詐欺師の常套手段なんですよねー。アトピーやガンの代替医療なんか典型ですね。

 「波動」とか「宇宙」とか「漢方」とか(漢方が全部胡散臭いわけではありません、念のため)「独自の」とか「なんとか水」とか書いてたら、ちょっと慎重になってください。そんなモノありませんから。ホントに良いものなら大手が商売にしてますって!!私も使いますって!!

 昔から言うでしょ?楽して儲かる話なんて無いんです。安く簡単に病気が治ることもないんです。詐欺なんです!

 こういうサイトは自分のところの商品を売りたいので、既存の薬や西洋医学をけなすところから始めます。そのパターンはすべて同じ。既存の獣医師は金儲け主義!西洋医学の薬は副作用が怖い!本当は薬は毒だから飲まさないほうが良い!

 タチが悪い所は、証拠として論文を紹介します。だってほら、論文に書いてあるでしょ。だから私は正しいんですよと。

 そりゃあ一般の人は騙されますよね。「へー、論文になってるのかそりゃあ間違いないだろうなあ。この先生、論文まで見つけてきてしかも教えてくれて親切だなあ。ちゃんと勉強してるんだなあ。よし、信じよう」

 それこそ詐欺師の思うつぼですからー!!

 理由そのいち。

 一口に論文と言っても、例えば科学雑誌の最高峰、世界中で読まれている「ネイチャー」や「サイエンス」に載った論文と、日本の小さな分野の、これまた小さな学会の、発行部数数千部しかない雑誌に乗った論文とを同列に語れないことはわかりますよね。

 権威という言葉はあまり使いたくないけれど、その説得力と内容の信憑性は別物です。つまり、論文にもピンからキリまであるということです。でも詐欺師はその「キリ」の論文をさも「ピン」のように紹介しているんです。

 理由そのに。

 論文には消費期限があります。科学の世界では「昨日の常識が今日の非常識」みたいなことが頻繁に起こります。はるか昔なんて放射性物質は病気を治す万能薬って思われてラジウムを飲んでたりしたんですよ。ガンで死ぬ人が多数出て、やっと危険性が認知されたとか。

 まあこれは極端な例としても、ダイオキシンの危険性、マイナスイオンの有効性、真夏の運動時に水分塩分補給するかしないか、コーヒーやアルコールが体へ及ぼす影響(適量なら良いのか、それとも少しでもダメなのか)なんて、昔から大幅に変わってきていることはたくさんあります。

 つまり何がいいたいかというと、論文を読む時は「いつ発表されたものか」ということがけっこう大事で、何十年も前に発表された論文を根拠として出してるっていう時点で疑わないといけないということです。

 ちなみに論文の発表された年は著者の後、一番最後に書かれているはずです(論文引用のルール)。


 理由そのさん。

 科学論文は「一科学者(あるいは一研究所、一大学)の意見」であって、絶対に正しいとは限らない。だって科学者によって意見が分かれることなんて山ほどあるわけですから。科学なんてまだまだわからないことのほうが多いんですよ。だから極端に言えば論文は「署名のあるブログ」っていうだけのものなんです。

 理由そのよん。

 都合のいいことだけ抜き出してないか。これ、たいへん多いです。論文紹介してても、それを隅から隅まで読む読者の人ってまあいないですよね。英語ならなおさら(科学論文は基本英語です)。だから、詐欺師は「その論文の、自分の都合のいいごく一部」だけ抜き出して、「ほら論文に書いてるでしょ!」って言うんです。
 でも、きちんと読んでみるとその「都合のいいごく一部」は全く本筋とは関係なかったりするんですよね。酷いものなんかでは「試しにこういう特殊な条件でやってみたら、悪い結果がでました。でも一般的にはすごくいい結果が出ましたよ」という実験結果の前半だけを取り出して「ほら悪い薬ですよ!論文に悪いって書いてますよ!」って言ったりしてます。
 これ、実際に、ある薬を否定してる獣医さんのウェブでやってることなんですよね。酷い話しです。


 というわけで、「インターネットを鵜呑みにしてはいけない理由」の途中ですが、ちょっと長くなってしまったので今日はここまでにしときます。

posted by hiro at 11:40| Comment(0) | 日記

2021年01月19日

TNRの賛否について

TNR活動ですが、「飼い主さん側と獣医師側」、あるいは「ネコに興味がない方と好きな方」で賛否両論あるのは知っています。

賛成の方の意見はおおむね以下の通り。
・キャットファーストで不幸な子猫、殺処分ネコを減らしたい
・活動することで猫の数が減り、結果的に環境がよくなる

一方反対派の意見はこんな感じ。
・安かろう・悪かろうの手術で問題が出る
・普通に手術する獣医師に対する間接的な圧迫になる
・そもそも動物愛護なんて興味がない
・動物愛護家には胡散臭い人間が多い
・野良猫に餌を与えてるひと、いわゆる「えさやりさん」が非協力的

 どちらも正論です。動物愛護、あるいはボランティアの問題は根が深く、なかなか正解というものがありません。

 そもそも、賛成派と反対派が正反対の方向を向いていることが多いため、議論にすらならない、平行線で当たり前なのかもしれません。現に、開業獣医師の間でも賛否両論あります。

 でも、反対する獣医師が動物(この場合はネコ)が大嫌いかといえばもちろんそんな訳はありませんし、賛成する獣医師が皆ボランティア精神にあふれているかというと必ずしもそうとは言い切れない(悪い意味ではなく、ビジネスとしてNTR手術を行っているという意味です)のがややこしいところです。



 私も、昔は目の前の(病院へ来てくださる)患者さん、動物たちのことで手一杯だったので、地域猫や野良猫の問題にはあえて目を向けませんでした。見て見ぬ振りをしていた、と言っても言い過ぎではありません。

 しかし、数年前にあるご縁があって地域猫の避妊去勢手術をお受けすることになり、数百頭の野良猫の手術をする中で、私のように小さく無名で特別な取り柄のない獣医師・動物病院でも皆様に(診療以外で)役立つことがあるんだなと誇りに思えるようになったのです。

 ただ純粋に、目の前で困っている人をがいるなら、それを助けるスキルを(微力ながら)持っているんだから手助けしようよ。どうせ残り少ない人生なんだし・・・と思ったのです。

 正直、小さな動物病院がTNR活動(手術)をするのはリスクがあります。院内感染は大丈夫なのか、一般の飼い主さんが離れてしまわないか、近隣の同業者はどう思うか、一見さんの動物愛護家さんたちとトラブルなく仕事ができるのか・・・

 でも、悩むより始めよう。なるようになるっしょ!


 ・・・全体的にょっと綺麗事すぎる文章ですが、まあそういう事で。
posted by hiro at 18:48| Comment(0) | TNR

2021年01月17日

TNR活動

大変ご無沙汰してしまいました。
言い訳の仕様もありません・・・・ごめんなさい。
約5年ぶりの更新になります・・・トホホ。

さて、今回重い腰を上げたのは、今年、新しいことに挑戦しようと思ったからです。
それも2つ。

1つめは、野良猫、保護猫のTNR活動(の手術)です。
ホームページの方でもアナウンスしましたが、TNRとは、

野良猫・地域猫を捕まえ(Trap)、不妊去勢手術(Neuter)を行い、元いた場所へ戻す(Return)。
その頭文字を取ってTNR、つまり、野良猫・地域猫を増えないようにする活動のことです。

当院では、今年からそのNの部分、すなわち不妊去勢手術でその活動のお手伝いをすることにしました。
捕まえること(Trap)と、戻しにいくこと(Returm)は、人員の関係でできません。

保護猫・地域猫の手術料金は、

オス 4,500円
メス 9,000円


になります(税抜)。

ちなみに、注意事項として、

●手術は完全予約制(お電話でOKです)
●ノミダニ駆除剤(800円・税抜)をお預かり時にさせていただく
●保護して、すでに飼い猫になっている子は不可(一般の手術料金をいただきます)
●耳カット(さくら耳)が必須

の4点です。



 実は、数年前から、ごく限られた近所の「地域猫」の避妊去勢手術はお受けしていました。

 交野市で野良猫に対する助成金が出るようになり、ちょうど地域猫のさまざまな問題が出てきていたところで、手術を受けてくれる病院が近隣になく、近所の方に頼まれてこそこそと(?)手術をしていました。

 ただ、こそこそとするのがだんだん嫌になり、また自身も歳を重ねて何か社会に貢献できることがないかという思いも出てきて、その延長で広く保護猫、地域猫の手術を受けよう!と決心したのです。



 さて、ここで皆さんの頭の中に小さな疑問が浮かぶのではないでしょうか?

「そんな値段で手術できるんなら、飼い猫、飼い犬もその値段でしてよ!やっぱりお前ら獣医はボッタクリの儲け主義なんだな!!」

・・・違うんです。今から説明させて頂きます。

 保護猫と普通の飼い猫の手術ですが、基本的にやることは一緒でも細かい部分が微妙に違います。

例えば・・・

術前にきちんと身体検査をするか、しないか(正確には「できない」んですが)。
麻酔モニター(呼吸数や心拍数を測定する機械)を使うか使わないか。
手術助手が1人付くか付かないか(もちろん何かあった場合はすぐ2人体制になります)。
気管挿管(気管チューブ)を使用するか、マスクで維持するか。
メスの場合、子宮と卵巣を両方摘出するか、卵巣のみにするか。

 そういう、安全性を極端に損なわない部分でコストカットします。

 ただし、おなかを縫う糸(溶ける糸です)や皮膚を縫う糸、麻酔の薬、抗生剤など重要な部分はきちんと飼い猫さんと同じものを使っています。ですから一定以上の安全さは担保されています。



 マグロのお寿司も、回転寿司と普通のお寿司屋さんでは値段が違いますよね?
 でも、普通のお寿司屋さんのマグロだけが本物で美味しくて安全で、回転寿司の100円のマグロは偽物で不味くて体に悪い、わけないですよね。

 つまりそういうことです。どうかご理解くださいますようお願いいたします。


で、2つ目の新しいことですが・・・それはまた次回。(5年以内に必ず更新します)

posted by hiro at 12:53| Comment(0) | お知らせ