2021年02月01日

動物病院とインターネット、続き

前回の日記では、こういうな話を書きました。

元々、動物病院とインターネットとは相容れないもの、いやむしろ敵のような関係でした

過去形になっていることには意味があります(後で説明します)。で、その理由として、

・飼い主さんが、ネットのいい加減な情報に惑わされる
・その情報を鵜呑みに、間違った知識で間違った治療を望む


という2点をあげたのですが、今日はその続きを書きます。

・情報だけでなく、サプリやフード(処方食)、さらには薬まで手に入ってしまう

 いい加減で間違った情報、あるいは正しい情報であっても自分い都合のいいところだけを読んで曲解してしまうという点については、まだ病院へ来ていただいた時にしっかりお話をして誤解を解くことが可能ですが、ネットでサプリやフード、薬を購入されて使われると我々は困ってしまいます。

 儲からないから?いいえ、違います。安全性を担保できないからです。

 サプリやフード、そして薬を一般の方がネットで買うときの危険性は4つあります。

1,間違える可能性

 フードや薬の名前はよく似ているものがたくさんあります。パッケージもフードなどによってはよく似ていて、名前だけ違うというものも数多くあります。肝臓用と腎臓用、腎臓用と心臓用など、フードの場合は間違ってもすぐに悪影響が出ない場合もありますが、薬の場合は直接命に関わります。

 同じ薬でも、1錠あたりの内容量が違うものがたくさんあります。病院で1錠(10mg)飲ませてたから、ネットで買ったのも1錠(20mg)飲ませてたら薬の用量が2倍で深刻な結果に、なんて事も起こりえます。

 いや、薬用量(体重1kg当たり薬を何mg与えるか)もネットで調べるから大丈夫?その情報、本当に正しいと判断できますか?それに、その子の状態・年齢・体調・病態によって1日に飲ます量や回数をきちんと調整できますか?

 あえて上から目線で書かせてもらいますが、シロウトさんが薬を自己判断で処方するのは無理です。「薬剤師」という国家資格がなぜあるかを考えればその難しさをご理解いただけると思います。(薬を扱えるのは医師、薬剤師、歯科医師、そして獣医師のみです)。

2,偽物の可能性

 フードやサプリでは少ないでしょうけど、薬の偽物はたくさん出回っています。特に高い薬でその傾向は顕著です。いちばん有名なのは、男性のEDの治療に使われるシルデナフィル(バイアグラ)、タダリス(シアリス)ですね。病院で処方してもらうと1錠1000円以上しますが、ネットでは数百円で買えます。しかしその多くは偽物だと言われています。

 ED治療薬なら効果がなくても命に別状はありませんし、プラシーボ効果で効くかもしれませんが、動物の薬の場合、プラシーボ効果は期待できませんし、何より命に関わります。高い薬を使わざるを得ない時というのは、えてして重篤で深刻な病態のときだからなおさらです。

 あなたかあなたの家族が難病にかかったとします。お医者さんで、この飲み薬を使うと治りますが1ヶ月で50万円掛かりますと言われました。その時、ネットで同じ薬を調べたら国産ではない聞いたことのないメーカーが同じ成分の薬を5万円で売っているのを発見しました。

 その薬、ネットで取り寄せて使いますか?・・・・私なら使いません。

長くなったので、続きます。
posted by hiro at 18:05| Comment(0) | 診療

2012年01月29日

寿命?

毎日寒いですね。巷ではインフルエンザが大流行とのこと。
皆様もどうかお気をつけ下さい。


今でこそ気軽に来てくださるようになりましたが、私が開業した頃はまだ「動物病院は贅沢品(?)」と思われている方も多く(というより「ボッタクリだ」と思われていたかもしれませんが・・・)、飼い犬や飼い猫が多少調子が悪くなっても大黒柱のお父さんが「んなもん、放っといたら治る!」と、ギリギリまで様子を見られ、病院へ来る頃にはもう息も絶え絶え・・というケースが跡を絶ちませんでした。

最近のように動物たちを家族同然に可愛がっている方からすれば信じられないかもしれませんが、昔は「もうダメかもしれないな、じゃあ病院へ連れて行くか」と考える人も多かったのです。え、そんな状態で動物病院へ連れて行くっても仕方ないのではって?違うのです。

そこで「助からない」という事を確認して、心に区切りをつける(諦めるため)に動物病院を訪れるのです。ですから「ああ、これはもう寿命ですね」とか「もう手遅れですね・・・」とか「せめてあと5日早く連れてきてくれたら手の施しようもあったのに・・・」と言ってくれる獣医さん(しかも、一目見て断定するような)がその時代の名医でした(えっと、この話はあくまで一般論です)。

逆に、そういう人に「だいぶ重症のようですから、検査しましょう」とか、「◯◯という病気が疑われますので、治療(手術)をすれば助かる可能性があります」と言うと、怪訝な顔をしたり困った顔をしたりして、もじもじながら「あの、先生、もうこの子の寿命なんで(検査も治療も)いいです」と返されてしまいます(そういう方はだいぶ減りましたが)。

で、その心の底には、多くの場合金銭的な問題が絡んでいます。それは悲しい事だけど私がどうこういえる問題ではありません(はっきりおっしゃってくださる方には、色々な問題解決方法を提示することは可能です)。

でも、本気で「この子はもう寿命だ。私がそう思ったんだから間違いない。あと数日で死ぬんだ!」と決めている方がまれに居て、そういう人はこちらが説明すればするほど頑なになってしまわれます。一番の悲劇は、ご家族の多くが検査や治療を望んでおられるのに、家長さんであるお父さんやお爺ちゃんが首を縦に振ってくれない場合。診察室は死にそうな動物を前にお通夜状態になります。


というわけで、つまり何が言いたいかというと、

「私は名医ではないので、一目診ただけでその子が寿命なのかどうかわかりません。だから、本当に寿命なのかどうか、もし病気であれば治る見込みがあるのかどうかを調べるため、せめて検査だけでもさせてください。そしてその結果を見て、どうするか決めてあげてください」

と言うことなのです。
posted by hiro at 12:01| Comment(4) | 診療

2012年01月22日

動物病院と電話

というわけで続きです。

前回、「(何か異常があって)すぐ連れてこれないなら、電話相談だけでもかまいません」と書きましたが、電話の件でお願いしたいことがいくつかあります。


まずは時間。病院にお電話いただくのは原則的に診察時間内になります(それ以外の時間は申し分けありませんが留守番電話の対応になります)。ですから、診察中で院長の手が離せない可能性があるということをまずご理解ください。その場合、こちらから改めてお電話させて頂きます。


次にお電話で受ける質問についてですが、基本的に電話だけで病気かどうか・重症かどうかを判断することはできません。実際に目で見てみないことには、診断が下せないのです。

よくあるご質問が、「〜なのですが大丈夫でしょうか?」「〜してるのですが連れていったほうがいいですか?」というものです。お気持は大変よく分かりますし、心のなかで「大丈夫ですよ」「そのままお家で様子を見ていただいて結構ですよ」と言って欲しいという本音が伝わってくる場合も多いのですが、残念ながら、電話で様子を聞いただけですべてわかってしまうほどの名医でも超能力者でもありません(笑)

冗談はさておき、この話を別の職業に置き換えてみてください。カーディーラーに「最近走っているとガタガタ音がするようになったんですが、故障ですか?」と聞いたら、きっと「それだけでは分かりませんので、一度見せて下さい」と言うと思います。自動車に例えるのが不謹慎なら、小児科のお医者さんに「うちの子が泣き止みません。どうしてですか?」と電話で聞いたと考えてみてください。「それだけでは判断しかねますので、できればご来院ください(それだけで判るか!連れてこい!!)」と答える(括弧内は心の声)と思います。


ここまで読んで、『あれ、「お気軽に電話相談してください」って書いてたのに「電話では分からない」って、どういうこと?』と思われた方は大変聡明な方です(笑)。そうなのです。一見矛盾するんですよね。実は私が本当に言いたいことは、「電話だけでは体の不調のことはわかりませんので、電話相談を足がかりにぜひご来院いただけますか?」ということなのです。

もちろん、しつけの問題や食事の悩みなど、電話でお答えできることに関してはご相談を承ります。


あと、診察時間内の電話で世間話をされたり、まったく関係のないことを機関銃のようにお喋りになられる方がたまにいらっしゃいます。親しみの表現として大変嬉しいのですが、看護師さんがカルテを持って、私の背中を睨んでいる(外来で何名も人が待っている)場合もありますので、病気に関係ないお喋りはどうかご遠慮ください。


ただ、こういう話を読んで「そうか、気を付けないといけないな」と思ってくださる方は、そもそもそういう事(電話での無理難題や診察中の長電話)をされたり仰ったりしない方で、逆に「そんな非常識な人がいるんだ。ふーん」と読み流してしまう人こそ無意識にそういう行動をされているというのがよくあるパターンなんですよね。


今回はちょっとだけ本音が出てしまいました。よりよい診療のため、外来の患者さんをお待たせしないためのお願いですので、どうかご理解くださいますようお願いいたします。

posted by hiro at 11:02| Comment(0) | 診療